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2011年12月19日 (月)

(12)禅の影響

別カテゴリー(LisaのNo.03)で、公式伝記本は「ジョブズが禅にどのように影響されたか書いてない」と苦言を述べたところ、さっそくMacテクノロジー研究所の松田さんが「禅とMac日本語化に見るジョブズ日本文化への理解度を探る(2011/12/16)」というのを書いてくださった。本当は、私の記事とは無関係だと思うが、一応こういう流れにしておこう(笑)。
内容的には、まったくもって松田さんの記事の通りなのだが、ワタシもフォローしようと思っていたので、この機会に少し触れておこうと思う。
「全然書いてない」と文句をつけたが、実際には少し書いてある(笑)。ジョブズが傾倒していたという僧侶は曹洞宗の方だったらしい。この宗派は禅宗の宗派の中でも「只管打坐」を打ち出しており、修行としては「ひたすら座禅するだけ」というシンプルな修行法をする。したがって、あまり理解力の乏しいライター(ゴメン)では書きようがなかったのかもしれない。出家した修行僧が毎日長時間座っていても、まったく悟りに至らないということだって勿論あるわけだから、会社を興して忙しく走り回るジョブズが、どれだけ「修行」できたかというのはかなり疑問だろう。
こういう場合、「つまみ食い」ではないのかという懸念がある。西洋人は自分を大切にする。「自分がない」などという状態は、ふつうは疎むべき状態である。ところが、一般に宗教というのは、まず「自我を捨てる」ことが要求される。これが人間の同じ部分かどうかについては異論があるかも知れないけど、近いところではあるだろう。だから、宗教の全体を受け入れるのではなく、自分にとって都合の良いところだけを取り入れようとする人がいるのである。
似たような話で、ジョブズは菜食主義(果食主義とも)だったというが、魚や好きなアナゴは食べたという。これは、どういうことか? こういうのは菜食主義ではなくて、単なる「偏食」ではないのか?
もっとも、ベジタリアンでも動物性の食品を採る人達もいる。たとえば、米国内でクンダリーニ・ヨガを教える3HOファウンデーションでは、基本菜食だが牛乳やチーズなどの乳製品はOKだ(かなり昔の情報だが)。あるいは、動物性のものは、「体力的に自分が捕獲できる範囲ならOK」とする人達もいる。つまり、若者は小動物なら食べてもよいが、歳をとったら小魚ぐらいにしておく、という主張だ。こういうのは、長年の経験と伝承の間取捨選択されてカタチ創られた体系であって、個人の好みで決めて良いものではないのだ。
ジョブズの菜食主義が首尾一貫したものであったのなら、そのポリシー、原理原則を紹介して欲しかったのである。それがジョブズの人間を書くことになるのではないか? そういう視点がこの著者には欠けているのである。
禅に関しても同じである。ジョブズの古い友人のコトケは、「彼は真剣にものを考えるようになるとともに、独りよがりで鼻持ちならない人物になりました」(*1)と証言している。これが本当なら、全然見当違いのことをしていたか、修行がすごく進んでいたけど一時的にマズイ状態だった?ということなのか。だが、その後の「現実歪曲フィールド」ぶりを見ると、どーも良い方向に進んでいたとは思えない(笑)。リサを産んだブレナンは、「彼は悟りを得た、無慈悲な人間なの。珍しい組み合わせよね」(*2)と言っている。彼女には、ジョブズに対していろいろな想いがあっただろうから、言葉通りでないのは当然としても……。
もう一つ気になることがある。ジョブズは後に、「世界を変えるのは宗教じゃなくて科学技術のほうだ」と考えていたフシがある。「おそらくトーマス・エジソンのほうが、カール・マルクスとニーム・カロリ・ババ(インドの聖者)の二人を合わせたよりも、世の中をよくするのにずっと貢献したと考えるようになった」と記録している人もいる(*3)。この考え方はよくわかる。もともとジョブズは、自転車のように人間の能力を拡張するものに興味があり、パーソナルコンピュータも「知的自転車」と位置づけていた。一つの偉大な発明が社会構造を変えることもある。ワタシも、そう考えていたことがある。確かに、科学技術が世の中を変えることがある、だけど人間も変えるだろうか? Sometimes? I don't think so.

(*1)ウォルター・アイザックソン著「スティーブ・ジョブズ」[Ⅰ]P95
(*2)ウォルター・アイザックソン著「スティーブ・ジョブズ」[Ⅰ]P153
(*3)マイケル・モーリッツ著「スティーブ・ジョブズの王国」P133

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